Chapter.11 頼られたくて、パソコンを贈った

頼られたくて、パソコンを贈った 未分類

彼女がITの勉強を始めた頃、私は以前使っていたノートパソコンを贈ることにしました。

本格的にITを学ぶのであれば、いずれパソコンが必要になるかもしれない。まだ十分に使えるものだったため、手元に置いておくより、彼女に使ってもらった方がよいと考えたのです。

彼女の勉強を応援したい。

その気持ちに嘘はありませんでした。

けれど、理由はそれだけではありません。

パソコンのことで分からないことがあれば、私を頼ってくれるかもしれない。ITの仕事をしている自分だからこそ、彼女の役に立てることがあるかもしれない。

そんな期待も抱いていました。

応援したい気持ちと、彼女との関係をもう少し深めたい気持ち。当時の自分を正直に振り返ると、3対7くらいで、後者の方が大きかったと思います。

パソコンをあげようと話したとき、彼女の反応は、私が想像していたほど大きなものではありませんでした。

「くれるなら、もらう」

そのくらいの受けとめ方だったように思います。

そもそも、彼女から欲しいと言われたわけではありません。私が自分から提案し、きっと役に立つだろうという考えを優先して話を進めました。今思えば、半ば強引に受け取ってもらう形だったのかもしれません。

パソコンを渡したのは、初めて二人で食事をした日でした。

彼女は「ありがとう」と受け取ってくれました。ただ、ノートパソコンは決して軽いものではありません。私は贈れたことへの満足感が大きく、彼女が持ち帰る負担まで十分に考えられていませんでした。

その後、私は心のどこかで、彼女から連絡が来ることを期待していました。

設定の仕方が分からない。使い方を教えてほしい。

そんなふうに頼ってくれれば、二人の間に新しい接点が生まれると思っていたのです。

ところが、彼女から相談が来ることはありませんでした。

気になった私は、こちらから、

「設定は大丈夫?」

と聞きました。

彼女の返事は、

「自分でやってみる」

というものでした。

行動力のある彼女らしい返事だったのだと思います。それでも当時の私には、少しそっけなく感じられました。

困ったときには、自分を頼ってほしい。自分だからこそ力になれる存在でありたい。

そんな期待をしていた分、何も変わらなかったことに寂しさを感じていました。

その後、もう一度設定について尋ねると、彼女は大学時代に少しパソコンを使った経験があるため、何となく分かると答えました。

今考えれば、彼女が自分で設定できても不思議ではありません。実際に自分でしたのか、誰かに教えてもらったのかは、今でも分かりません。

それでも当時の私は、頼ってもらえなかった寂しさから、自分の知らない誰かに教えてもらい、そのことを隠しているのではないかと考えてしまいました。

パソコンを贈ったからといって、二人の関係が急に深まることはありませんでした。

けれど、しばらくたってから、そのパソコンが役立つ場面があり、少し使ってくれていることを知りました。そのときは、少し救われたような気持ちになりました。

贈った直後に私が期待したような変化は起きませんでした。それでも、そのパソコンが彼女の役に立ったのであれば、贈ったことには意味があったと思います。

応援したかったのか。

頼られたかったのか。

おそらく、どちらも本当の気持ちでした。

ただ、あの頃の私は、彼女のために何かをすることで、自分が特別な存在に近づけるのではないかと期待していました。

パソコンを贈った行動には、彼女を思う気持ちだけでなく、自分を必要としてほしいという願いも隠れていたのです。

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